パンプスとスニーカー
 「わっ、いつの間にか、もう日が暮れちゃってるんだ」




 地平線に沈みかけたわずかな斜光が、ビルを赤く染め、空には小さな星々が瞬き始めていた。


 武尊も腕時計を確認して、




 「だね。そろそろ…もう18時か。早いな」




 自分と同じ感慨を洩らす武尊の呟きが、ひまりは妙にくすぐったかった。




 「本当は、スカイデッキで日没を見て…けやき坂のイルミネーションを見ながら、あのあたりをショッピングがてら歩くつもりだったんだけど。ちょっと、張り切って詰め込みすぎだったな」




 ハァッ…と小さくため息をつく武尊の言葉に、ひまりが首を傾げる。




 「どうして?あたし、行ってみたいな」

 「いや、そっちはまた今度にしよ?」




 おそらくひまりの足を心配してのことだと察せられた。


 しかし…。




 「そんな顔しないで?またいつでも来れるよ」

 「……ん」




 …そうだといいな。


 そんなことを思って、ドキッと小さく心臓が鳴る。




 「もし、もう少しだけ歩くの大丈夫そうなら、まだディナーの予約の時間までちょっとあるし、ウエストウォークにあるアート&デザインストアを見に行かない?」

 「アート&デザインストア?」

 「そう。タワーにある森美術館と同経営の店なんだけど、現代アートの作家のオリジナルグッズやあそこ独自のデザイングッズが置いてあって…ほら、ひま、今日の思い出にお土産を買いたいって言ってたじゃない?」

 「ああ!」




 自分で言っておいてなんだが、すっかり忘れていた。


 というか、武尊がけやき坂でオススメのお店を紹介してくれると言っていたので、そちらに行くことをキャンセルされて、やや意気消沈気味に諦めていたのだ。




 「憶えててくれたんだ」

 「だって、初めてのヒルズでしょ?」

 「……うん」




 なんだか小学生の遠足か、いかにもお上りさん的で気恥しかったが、武尊の顔は柔らかく微笑んでるだけで、そこに嘲りは見えない。




 「アート&デザインストアだけじゃなく、あのあたりにはハイセンスな雑貨店が所狭しと軒を並べてるから、見て回るだけでも楽しいよ」

 「へぇ~、行ってみたいな」

 「よし、じゃ決まり」




 現金なものだが、ウキウキした気分がまた戻ってくる。

 あきらかにお土産を買いたがっていたひまりの為のチョイス。




 「武尊は行きたいところないの?」

 「え?」

 「だって…」




 女性が好むオシャレなイタリアンでのランチもそうだが、今日のデートの全体的なプランはどれもこれもひまりが喜ぶだろうと選ばれたものばかりで…。




 「武尊が行きたいところも行こうよ?」

 「俺が立てたプランだよ?自分が行きたくないところなんて選ぶわけないじゃん?」

 「…そうかもしれないけど」

 「ひまが楽しかったって、思ってくれたなら大成功だよ。もちろん、凄い俺は楽しいけどね」




*****




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