パンプスとスニーカー
 「言っときますけど、兄さんが一番、カンカンだからね」

 「うぐっ」




 武尊は一家の末息子で、長兄とは親子ほどにも年が違うだけにかなり立場は弱く頭が上がらない。


 二人の姉たちは年の離れた弟ということもあって、なんだかんだ甘いが、兄は違う。


 婿養子の父親の影が薄いだけに、この兄の権威は一家では絶対だった。


 唯一、その権威を崩せるのは武尊に甘い祖母の存在だったから、ある程度の自由がきいてはいるのだが。


 病院の跡取りである兄の厳然とした眼差しを思い出すと、大人になった今でもそれだけで萎縮してしまう。


 …情けねぇ。




 「一佳、とりあえず冷静に。あなたも、午後から入院棟の回診があるのだから、のんびりはしていられないでしょ?」

 「はい」




 ムクれながらも、祖母の言葉は絶対だ。


 横に置いてあったアタッシャケースからA4封筒を取り出して、一佳がつっけんどうな態度でそれを武尊へと突きつけた。




 「…なに?」

 「見なさい」





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