パンプスとスニーカー
 「う、それは」




 もちろん美紀からは、良かったらアパートの復旧、もしくは火災保険が降りる等、生活の目処が立つまでいたらと誘ってもらえていたし、美紀の彼氏もその間、実家に帰る等々、気を使って言ってくれたが、さすがにそこまで甘えるわけにはいかないだろう。


 かといって、それほど広いマンションというわけでもないのに、カップルの間に割り込んで間借りできるはずもない。




 「なら、うちに来れば?」

 「えっ、いいの?」




 まさに渡りに船だ。


 実のところアテにはしていたが、それをどう切り出そうか悩んでいただけに、沢からの申し出は涙が出るほどありがたかった。




 「それならそうと、さっさと連絡寄越しなさいよ」




 実は沢にも連絡したのだが、今まで丸一日音信不通状態で、どうにもこうにも困り果てていたのだ。




 「あ~、ごめん。携帯壊しちゃってさ」

 「またあ?」

 「…洗濯機で回しちゃった」

 「「…………」」




 ボーイッシュでしっかりもののイメージに反して、意外にうっかりしている沢は、よく携帯電話を無くしたり壊したりがデフォルト状態で、連絡が付かないことも珍しくはなかった。




 「だから、あんたは固定電話つけなさいって言ってるのに」

 「めったに使わないし、部屋にもほとんどいないのにもったいないじゃない」

 「たしかに」




 かくゆうひまりも、部屋に固定電話を取り付けていなかったクチだ。


 しかし、ひとまず今夜からの宿の目処がついた。


 あまりに長期間というわけにもいかないだろうが、それでも沢のところなら、1週間やそこらは泊めてくれるだろうとホッと安堵の息をつく。




 「あ、…でもさ、実は来週、親戚の結婚式があってさ。田舎の親戚が上京してくるから、1週間ほど泊めてあげることになってるんだよね」





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