探偵の彼に追跡されて…
このままこんな奴の餌食になるくらいならいっそう舌を噛んで死んでしまおう。

目を瞑り死ぬ覚悟を決める。

でも口の中のハンカチが邪魔する。口の中から舌で押し出そうとするけど、上手く行かない。

悔しい。悔しいよ。死ぬ事も出来ないの…

所長…

どうしてだろう…

こんな時に所長の顔が浮かぶなんて…

所長には妻子が居るから絶対に好きにならないって決めていたのに…

やっぱり好きになっちゃてた…

私って馬鹿だな…

こんな時に気づくなんて…

もう一度、所長に逢いたかった。

もう一度、所長の甘い微笑みが欲しかった。

もう一度、所長の声が聞きたかった。

もう一度… もう一度…

ドン!! ダン!! バッシ!!

「美野里! 美野里!!」

やだよ… あんな奴の声が所長の声に聞こえる。

こんなに所長の事が好きだったなんて…

すると口の中からハンカチが無くなり口が楽になる。

あっ舌を噛むなら、今だ!

「イヤ!イヤー!! 触らないで! 私に触らないで! あんたなんかの餌食になるくらいな、舌噛んで死んでやる!…」

震え暴れる私の体を誰かが力強く抱きしめる。

私を抱きしめている人が叫び、そして諭すように言う。

「美野里! 美野里! 大丈夫だよ。落ち着いてもう誰もお前に触らせない! 美野里。 しーしー…」

そう言って私の唇を柔らかいもので塞ぐ。

私は聞き覚えのある声に閉じていた瞳を開けると、そこには所長の顔が合った。

私の唇を塞いでいたのは所長の唇だった。

そして唇が離れると所長は眉を下げ苦しそうな顔をする。

「遅くなってごめん…」

「所長… 怖かった… 怖かった…」

私は、今まで我慢していた物が堰を切ったように溢れ流れる。

「うん… ごめん、ごめんな…」

私は怯える子供の様に所長にしがみつく。







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