次期社長の甘い求婚
退社時刻で、すれ違うのは社員達ばかり。

みんな信じられないものでも見ているような目で、私と神さんに視線を送ってくる。


「俺に話があったんでしょ? 悪かった、せっかく訪ねてきてくれたのに不在で」

「……っ!」


亜紀め……!

あれほど念を押してきたというのに。


一瞬にして亜紀の舌を出しておどける顔が脳裏に浮かんでしまう。


「会社じゃ美月も話せないだろ? だから早く出よう」

「それはそうですけどっ……!」


ん? ちょっと待って。
さっきから神さん、私のことを〝美月〟って呼んでいない……?


スマートすぎる名前呼びに、今まで気づかなかった。


階段を一気に駆け下り、玄関を抜けていく。


歩道にはたくさんの人で溢れている中も、神さんの足は止まることなく進み続ける。


オフィスからずっと早足できたせいで、少し息が上がってきてしまった。

「もう少し頑張って、駐車場すぐそこだから」
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