次期社長の甘い求婚
ふたりのやり取りに面食らいつつも、顔を真っ赤にさせて怒るお父さんに胸がこそばゆい。


もう会うことはないと思っていた。

お父さんにはお父さんの生活があるし、今回で最後だって。
それなのにそんなこと言われてしまったら――……。


「あの、……その、お父さんさえよければ、私は別に……」


精一杯の勇気を出して伝えると、お父さんの動きはピタリと止まり、真顔でガン見してくる。


「え……美月いま、お父さんて……?」

「……? お父さん、ですよね?」


意味が分からず首を傾げると、神さんのお父さんがまた代わりに答えてくれた。


「小野寺さん、こいつ感動しているんだよ。初めてお父さんって呼ばれたから」

「あ」


そういえばそうかも。
会ってから一度も呼んでいなかった。


途端にお父さんは目を潤ませたものだから、ギョッとしてしまう。


その隣で神さんのお父さんは口元を手で押さえることなく、豪快に笑い出した。


「お前っ……! この歳になってそれくらいのことで泣くなよな」

「っうるさい! 娘がいないお前には一生分からない気持ちだ!」


慌てて涙を拭うとお父さんは、どう反応したらいいのか分からず立ち尽くす私に、胸ポケットから名刺を一枚差し出した。
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