次期社長の甘い求婚
「……っ、すみません」


まるで絵本の中から出てきた王子様の如く手を差し伸べる姿に、顔なんて上げられない。


伏せたまま差し伸べられた手に触れると、勢いよく引かれほとんど自分の力を使うことなく立ち上がれた。


すぐに手は離されると、「これ、どこに片付けるの?」の声に顔を上げれば、あろうことか神さんは私が使用していた脚立を閉じて担いでいた。

その姿にギョッとし、声を張り上げてしまう。


「じっ、神さんそんなっ! 私が持ちますからっ」


御曹司様になって興味ない。

けれど、営業部に配属され次期社長である神さんに、庶務課の雑用なんてさせるわけにはいかない。

しかも使っていた脚立、随分使い込まれていて錆があるし、持ち方によっては汚れてしまう。


慌てて駆け寄り脚立を受け取ろうと手を差し出すものの、「いいから」と拒否されてしまった。
とはいえ、すぐには引き下がれない。


「これは私の仕事ですから」


この前は運ぶの手伝ってもらっておいて今さらだけど、これはさすがに気が引けてしまう。

食い下がらない私に痺れを切らしたように、神さんは大きく息を吐いた。
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