次期社長の甘い求婚
「……なんかいいな、こういうの」

「え、なにがですか?」


朝食を済ませた後、布団を干しているときだった。
手伝ってくれていた神さんがポツリと呟いたのは。


「前にも話しただろ? 俺の両親は忙しい人だって。……こういった当たり前の日常なんて、一日もなかったからさ」


ベランダに出ると神さんは、雲ひとつない青空を見上げた。


「休日に朝ご飯作ってもらって一緒に食べて。洗濯して布団干して……。そんなこと一度もなかった。家事は全部家政婦任せの人だったから」


「そう、だったんですか……」


お父さんにも言われたけれど、私は自分が思っていた以上に平凡で幸せな生活を送ってきたのかもしれない。


お母さんからの愛情だけはたっぷり受けてきたから。
こんな日常も当たり前だった。いつもお母さんはそばにいてくれた。


そしてお父さんにも、自分の知らないところで愛情を受けていて。


それなのに他の子の家庭を羨み、ふたりを恨んだり。

何も知らなかったとはいえ、私はふたりに平凡で穏やかな幸せな生活を与えられていたのかもしれない。
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