次期社長の甘い求婚
しっかり焼き付けていこう。
大好きな人の笑顔を――。


ギリギリまで見つめ合い、ドアが閉まる直前に乗り込んだ。

あっという間にドアが閉められ、お互い会話できなくなってしまう。


それでも神さんは口を動かしなにか私に伝えてきた。


え、なに?


目を見張り神さんの動く口元を追った瞬間、彼が伝えている言葉に堪えていた涙が溢れ出す。



“あいしているよ”



「神さんっ……!!」


泣き出した私を見て、神さんは困ったように眉尻を下げている。


ごめんなさい、神さん。
最後に泣き顔を見せてしまって。


ゆっくりと走り出す列車。
咄嗟に窓に身体を寄せ、必死に神さんの姿を目で追ってしまう。


次第に小さくなっていく姿。
完全に見えなくなった瞬間、その場に崩れ落ちてしまった。


「うっ……ひっく……」

必死に堪えていた分、決壊したように次から次へと溢れ出していく。
< 329 / 406 >

この作品をシェア

pagetop