毒舌王子に誘惑されて
その日から、昼間はお受験企画を、夕方からは女子アナを追いかける生活が始まった。

実際に子供にお受験をさせた夫婦に話をきいたり、教育評論家に話を聞いたりと忙しいけど充実していた。

少しずつ、サブリナの仕事を思い出すことも減ってきていた。


「あ、ちょっと寄っていいですか?」

取材の帰り道、葉月君が書店の前で立ち止まった。

他社の雑誌チェックかなと思いきや、葉月君は雑誌コーナーには目もくれず文藝の棚へと歩いていく。


「神永 一郎? 仕事関係?」

私は葉月君の手元をのぞきながら、聞いてみた。

神永 一郎は純文学作家で、葉月君が手にしているのは彼の新作だった。

小難しいというか、癖のある作風で、大衆受けするタイプの作家ではない。

「俺がプライベートで神永 一郎を読んでたら、ダメですか?」

葉月君はちょっと拗ねたようにぷいっと顔を背ける。

「ダメじゃないけど・・意外ね」

私は正直にそう言った。
出版社に就職する人間はやっぱり本好きが多いけど、葉月君はどう見ても純文学を好むタイプには見えななかった。

「好きなんですよ、神永 一郎」

「へぇ」

葉月君は手にした本を持って、レジに向かう。

心なしか後ろ姿がウキウキしているように見えて、可笑しかった。
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