毒舌王子に誘惑されて
考えても仕方のないことばかりが頭をよぎる。

私の作業の手は完全に止まってしまっていた。


「美織さん」

呼ばれて顔をあげると、葉月君が冷めた目で私を見据えていた。
周りを見渡すと、他のメンバーも呆れたような顔で私を見ている。

編集長だけがいつもの穏やかな微笑を浮かべていた。


「記事の差し替えなんて、週刊誌じゃ日常茶飯事です。 いちいち落ち込んでもキリないですよ」

そう言った葉月君はもう私の方は見ていなくて、原稿に赤で修正を入れる作業に
追われていた。

みんなに謝って、すぐに仕事に取りかからなきゃ。

頭ではそう思うのに、私の口からは何の言葉も出てこない。

「どうしても落ち込みたいなら、入稿が済んでから勝手にどうぞ。
今はどんな状況か、見ればわかるでしょ」

葉月君のきつい口調に騒がしかった編集部がシーンと静まり返った。

「葉月、いくら何でもそんな言い方しなくても・・美織ちゃん、気持ちはわかるけど確かに今は時間がないからさっ」

佐藤さんが必死にフォローを入れてくれる。

「ーーごめんなさい。 仕事、します」

小さな声でそれだけ言うのが精一杯だった。
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