毒舌王子に誘惑されて
帰りがけにサブリナ編集部に寄るつもりでプロフィールブックをバッグにしまってから席を立つ。

ちらりとまだ残っている葉月君の姿が視界に入った。どうやら、別の企画に取り掛かっているみたいだ。


何か言うべきだろうか。そう思ったけど、迷った末に結局は何も言わず立ち去ることにした。

今、口を開いても、きっと恨みがましい愚痴しか出てこない。
出来ない女の言い訳なんて、葉月君も聞きたくないだろう。


眠気でクラクラする頭を抱えて、サブリナ編集部に向かう。 同じ社内なのにエレベーターを降りた瞬間から空気が違う。

香水や化粧品の香りが鼻をかすめる。

急に徹夜明けでボロボロな自分の姿が気になりだした。
サブリナ編集部の皆には、こんなみっともないところは見せたくなかった。


せめてファンデだけでも塗り直そうか。
そう思って、私はトイレへ向かう。


個室から出ようと鍵に手をかけた時、
キャーキャーというはしゃいだ声が聞こえてきた。

女の子が数人トイレに入ってきたみたいだった。

「でも、小清水さんの大抜擢には驚いたなぁ」

「ねっ。20代で副編集長って最年少記録らしいよ」

よく通る高い声で話すので、しっかりと聞き取れた。声だけじゃ誰かはわからないけど、サブリナ編集部の子達だろう。

盗み聞きしているようで居た堪れない気持ちになって、慌てて出ようとしたその時だった。
< 23 / 100 >

この作品をシェア

pagetop