毒舌王子に誘惑されて

「念願の文藝担当、本当におめでとう」

美織さんは明るい声でそう言うと、俺のグラスにビールを注いだ。


美織さんと付き合い始めてそろそろ一年になろうというこのタイミングで、俺は念願だった文藝担当へ異動が決まった。


もちろん嬉しくない筈がない。
ずっとやりたかった仕事で、俺はそのために出版社に入ったのだから。


けど、隣で嬉しそうにはしゃぐ美織さんの姿を見ると少し複雑な気持ちになる。


「・・ちょっとくらい、寂しがってくんないの? 」

子供だなと思いつつも、言ってみた。


俺達の関係はとても上手くいっている。
けど、今だってろくにデートする時間も取れてない。
仕事上もコンビだったのは最初だけで、今は別々の企画を任されてるから毎日顔を合わせるわけでもない。

それでも、校了スケジュールが一緒というのは最大のメリットだった。

文藝に異動すれば、そのメリットすら失ってしまう。
今以上にすれ違いの毎日になることは間違いなかった。


「うーん・・・そりゃね、寂しいよ。寂しいけど、やっぱり嬉しいの方が大きいかな!! ずっと頑張ってきた葉月君の夢が叶うんだもん。 自分のことみたく、楽しみでワクワクしてるよ」

美織さんは目を輝かせて、俺に微笑みかける。


その笑顔に、俺は一つの覚悟を決めた。
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