逆光
「和泉なら言いそうですね」
「実際言ったからね。私もビックリしたよ。あの子いいねぇ、良くも悪くもハッキリしてて」
「そうですか……」
苦笑いしながら鞄から資料を取り出す。
古風な料亭の個室。
今回この場所で安国寺と会う目的は、和泉の話をすることではない。
反TS活動への大口の援助をしたい、と安国寺から申し入れがあったからだ。
だから総馬も今取り組んでいる研究を早めに切り上げてきた。
和泉が出版社へ、総馬が国立の理系研究所へ就職した年の秋のことだった。
「最近どうなの?私みたいに資金援助の申し入れも増えてきたんじゃない?」
「そうですね。ナムト戦争の停戦から、各方面からの援助は増えましたね」
安国寺は「ふーん」と呟きながら総馬が渡した資料に目を通す。
停戦とは言っても、ナムト国と総馬の国との間でだけ、の話なのだが。
「でも現実のところ、大々的に活動できるのはまだ先のことなんでしょ?ナムトはまだ戦場だし、木なんか植えてる場合じゃないって感じじゃないかな」
総馬は苦笑いを返す。
確かに、国内での運動は盛んだが、実際に実行できていることは少ない。
汚染された土壌を浄化するには植林が一番だ。
だが、木を植えようにもナムト国は未だ戦争状態。
そうホイホイ人を派遣できる状況ではなかった。