なみだ雨





家に帰ると、

お粥はきれいに食べてあった。


奥のふすまを開けると、

店員さんはちゃんと横になって寝ていた。


練は音を立てないようにふすまを閉め、

スーパーで買ってきた物を冷蔵庫に

入れる。



あれ、

と大福がなくなっているのに気づく。


ゴミ袋を見ると、

大福の包み紙が捨てられている。



練は桶の中に氷を入れた。




「起きてますか?開けてもいいですか?」


開ける前にそっと声をかける。


「…はい」


中から小さい声が聞こえた。


練は桶を持ち直すと部屋に入る。


「大丈夫ですか?」


「…すみません、ご迷惑を」


なかなか布団のそばに来ようと

しない常連さん。

はるかはちょっと変に思った。



「あの、タオル変えてもいいですか?」


「…はい」



なんでかわかった。

わたしが来ないでと言ったからだ。

だからこんなに近づかないんだ。



常連さんははるかの額の濡れタオルを

冷たい氷水に入れた。


「朝は、すみませんでした」


「…いえ」


沈黙。


「本当にすみません、取り乱して」


「大丈夫です。気にしてません」


再び沈黙。


「すぐに出ていきます」


なんとなく居心地が悪くなって

はるかは起き上がろうとする。


「あっ、いや、あの、違います違うんです。迷惑とかじゃなくて、あの…」


常連さんが慌てて口を開く。

はるかが常連さんの顔を覗き見る。


「違うんです、ただ、こういうの初めてで。知らない女の人を家に上げるの…。いや、知らないわけじゃないけど、その…」


はるかは微笑んだ。


「ありがとうございます」


「いえ。それじゃあ、乗せますね」



常連さんはそう言うと
はるかの額にタオルを乗せた。


< 11 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop