なみだ雨
6
アパートの前から、自分の部屋に
電気が付いているのに気がつく。
練は階段を上ってドアを開けた。
「おかえり〜遅かったね」
成海の声が聞こえたと思ったら、
餃子を頬張りながら翔太が顔を出す。
「あれ、翔太」
「おう、お邪魔してるぜぃ」
練はコートを脱いでこたつに足を入れる。
「ごはん食べるでしょ?」
しゃもじを持った成海が聞く。
「ううん、食べてきた、ごめん」
「食べてきた?」
息をつく暇もなく翔太が身を乗り出してきた。
鬱陶しそうに練は立ち上がる。
成海の視線を背中に感じながら練は
シャワーを浴びに風呂場に行く。
『はるかです、わたしの名前』
頭の中をこの言葉が駆け巡る。
菊原さんと呼んでいたのがダメだったのか。
はあ、とため息をひとつこぼす。
名前で呼んでもいいのだろうか。
そもそも、どうしたら名前で呼べるのか。
ふとここで、
自分がタオルを忘れたことに気づく。
もう上半身は脱いでしまって。
しかたなく練は、
「翔太!ごめん、タオルとって」
成海の事はあえて呼ばないでいた。