なみだ雨
「あぁー、やっぱりそうだ、覚えてない?わたしのこと。ほら練の…」
「どうも…あのときは本当に出過ぎた真似を…」
あの時とは、
おじさんがはるかを連れ戻しに来た時、
練が追い払って
ゆっくりと話をしようとしてた時。
「わたし、塩島成海、あなたは?」
「…菊原はるかです」
「練から聞いたの。ここで働いてるんだって。へえ〜似合ってるじゃない、制服」
成海ははるかの制服の袖を引っ張る。
それをやんわりと静止しながら、
中に促した。
「練にね、お使い頼まれたの。なんでもいいから美味しそうなのお願いって」
ショーケースを開けつつ、
はるかは、ぎこちない笑顔で返した。
「これなんてどうですか」
そう言って出してきたのはきんつば。
なかなかこっちを見ようとしない成海の
視線の先には大福が。
「大福…大福にする」
わざと。
わざと大福を言わなかったのに。
練の喜ぶ顔が成海に向けられると思うと
とても苦しくて。とても悲しくて。
「練ね、前はそこまで大福好きじゃなかったの。でもわたしが好きだって言ったら、じゃあ成海の好きな食べ物を俺も好きになるって言ってくれて。だから、大福にする」
真っ直ぐ。
成海は真っ直ぐはるかを見つめる。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように。
息をするのもやっとなこの空気。
トングを握る指先が震えていた。