さよならは言わない
急いで自分のデスクへと戻って行くが、流石にこの時間帯はフロアには殆ど人影は見当たらない。皆、休憩時間なのだから食堂や会社の外へランチに出かけている。
ところどころ人影があってもそれは正社員の人で余程大事な仕事があるからなのだろう。
営業部は1課から3課まで明かりは消され窓から入り込む太陽の明かりだけがデスクまで光を届けていた。
昼間なのに低い天井と窓からの奥行きがあるからだろうか、随分とフロア全体が薄暗く感じる。
中央よりの私のデスクに腰かけるとパソコンの電源を入れ調べものに取り掛かることにした。
荷物をデスクの一番下の引き出しに片づけ、メモ用紙と筆記具を取り出し知りたいことを箇条書きにした。
そして、パソコンが起動するとブラウザを起動させ知りたいキーワードを入力する。
「内装や電気系統、排水溝まで変わってしまうのね。床や壁紙だけを張り替えるって単純なものじゃないのね」
ついつい他社のサイトを見て営業3課がどんな仕事に当たるのかなどを見てしまっていた。
これまで携わったことのない業界だから納得のいかないことばかりで戸惑いも多い。
少しは事前に調べておけば多少は戸惑いも減ったかも知れない。
「昼飯は食ったのか?」
いきなり背後から低い男性の声が聞こえてきて驚いてしまった。
まるで耳元で囁くような声に聞こえ耳の中までくすぐったく感じてしまった。
そんな私を見てクスクス笑っているのは私の上司でもある森田さんだ。
「驚かすつもりはなかったけど。勉強熱心なのはいいけど、休める時にしっかり休めといてくれよ。今日も残業になるんだからな」
そう言うと森田さんはパソコンの電源を勝手に切ってしまった。
まだ、調べたい事があったのにと困った顔をしていると、森田さんは隣の椅子へと腰かけると私の方へと椅子の向きを変えた。