さよならは言わない

「君たちはよく一緒に食事をするのか?」

「たまにですよ。一緒に仕事をする仲間ですし、短期間とはいえ私の仕事の補助をしてもらうので親睦は大事かと思いまして」

「親睦ねえ。確かに森田君の言うことに一理あるが」


奥歯に物が挟まった様な物言いをして、私に忠告でもするつもりなの?!

気分が悪くなる。食事の気分ではないわ。


「ところで、笹岡さんは仕事はどうですか?少しは慣れましたか?」

「私の仕事の評価でしたら森田さんにお聞きになればよろしいかと思いますが」


私を信じていない人に話す言葉は持ち合わせていない。

だから、私から話すことはない。知りたいことがあれば森田さんに聞けばいいのよ。


私が尊を見ることなく無視した物言いに森田さんは少し困り顔をしていた。

そして尊の機嫌を取るかのように私の評価を説明してくれた。よく頑張ってくれていると。


「毎日残業だと自由になる時間がなくて遊ぶ時間もないだろう?」


尊は私が大勢いるエリート社員を誘惑するためにこの会社を選んだとでも思っているの?

そして、まずは一緒に仕事をする将来有望視されている営業マンの森田さんを狙っているとでも?

どうしてそんな見方が出来るのか私には謎だわ。


尊と過ごした時の私は幸せだった。愛し愛されていると思っていたから。だから、赤ちゃんが出来たと分かった時、嬉しくなって尊にも喜んで欲しかったのよ!

なのに、ほんの少し夢を見た私は財産目当ての阿婆擦れ女だと罵られた。蔑んだ目で見られどんなにショックを受けたか。


きっと、尊には分からないこと。
だから、言うことは何もない。


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