さよならは言わない
「絵里が休憩出来ればデスクでもいいか。少しは目を休めないと視力が落ちても会社は何もしてくれないからね。しっかり休憩は入れた方がいいわよ」
10時と3時になると派遣社員の私でも休憩しやすいように友美が私のところへと来てくれる。
そのお蔭で随分仕事にメリハリがついて仕事が捌ける。
派遣社員に対してもこの小休止は必要なのだけれど、一時的な雇用でしかない外部の人間に対しては労わる心など会社側は持ち合わせていないのだろう。
ほんの10分だけどその休憩が私を生き返らせてくれる。
他の社員達も自分らの仕事の段取りをつけ各自適当に休憩をしている。その間の社員達は疲れを癒しているからかとてもイキイキしているように感じる。
すると、営業部のフロアの女性社員達の黄色い声が私達のところまで聞こえて来た。
何かと思えばフロア内を歩く尊の姿が見えた。
尊の姿を見るとまだ緊張からなのかそれとも精神的に余裕がないのか体がどうしても強張ってしまう。
なのに、尊の姿を目で追いどうしても目が離せないでいた。
そんな私に気付いているのか尊は私の目を見つめて微かに笑っていた。
「森田君、ちょっといいかな?」
尊は私の様子を見に来たのではなかった。昨日、恋人契約をしたからと、こんな風に堂々と職場で私の前に現れるはずない。
自分がとんだ自惚れ屋だと恥ずかしくなった。