ご褒美は唇にちょうだい
「天候が崩れる予報が出ていたのに、随分のんきですね」


私の後ろで久さんがちくりと言う。


「真木さん、すみません。ちょっとあそこの事務所、特殊なんですよね。そのへんの管理甘くて。今日、この後は全部下條さんの出るシーンだし、こっちも困っちゃってるんです」


「事務所は大手のイエローサンプロでしょう。どちらかと言えば、本人とその周辺だけの危機管理の問題だとは思います。端役の都合で、うちの鳥飼を振り回してほしくないですね」


久さんの言葉に、ふたりも固まっている。
下條さんは端役などではない。

久さんが言いたいのは『うちの鳥飼を待たせるようなヤツ使うな』ってこと。


「久さん、もういいわ」


私は立ち上がる。
久さんは私の立場を害する人間に非常に厳しい。


「今日はバラシってことでいいんですよね、湯川さん」


相手役が来なければ、撮影はできない。
今日は解散。そういうことを言いにきたのだろう。




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