ご褒美は唇にちょうだい
しかし、一度きりだった。すぐに信川は婚約が決まり(知らなかったが、俺は一夜の浮気相手にされていたようだ)俺は何も口にしなかった。
信川に惹かれていたわけじゃないし、目下は操の面倒が優先だったから。

こうして信川が再びちょっかいを出すようになってきたのは、昨年彼女の結婚が破綻してからだ。


「随分昔のことを引っ張り出すなよ。俺はもうその気はない」


「私、フリーだから面倒くさくないよ?別に付き合おうってわけでもないしね」


信川は俺とセフレにでもなりたいのかもしれない。

そうだとしたら、俺はごめんだ。
社内で妙齢の二人がセフレ関係だなんて、ぞっとする。こじれたら終わりじゃないか。

それに、操のこともある。

操も女だ。俺と信川に何かあれば、勘付くだろう。

操は俺に妙な執心がある。受け入れることはできなくても、変な失望のさせ方をして、今後の仕事に響かせたくない。

鳥飼操のマネジメントは俺以外には務まらないだろうという自負もある。
操ともこじれて、マネージャーを離れるということは避けたい。
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