ご褒美は唇にちょうだい




事務所に戻る前に、久さんとやってきたのは行きつけのイタリアン。

一応芸能人に分類される私は、いつも小さな個室を取ってもらい食事をする。
小さい頃から、このスタイルだったので、私にとって外食とは個室が当たり前。

一度、カウンターで食べてみたいけれど、久さんはそれを許してくれない。


「サラダ、チーズ、サラミ、最後にニョッキ」


私がメニューも見ずに言うと、久さんはさらりと答える。


「もう、注文済みです。間もなくそろいます」


抜け目もそつもない。
私がいつも頼むメニューを当たり前に先回りで用意する。


「私がたまには違うのが食べたいって言ったら、どうするつもりだったのよ」


「そういう時は、言われずともわかります。操さんは顔に出る」


向かいに座った久さんは余裕の表情で答える。

小憎らしい男。この男が余裕を失ったことなんていまだかつて見たこともない。

こっちに余裕がない時だって、ひとり涼しい顔をしているんだから。
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