ご褒美は唇にちょうだい
「今日、あの小鍛冶(こかじ)って人も来るんだってね」


操が油でてらてらの唇をこちらに向けた。出てきたのは今作で一番絡みの多い相手役の名前だ。


「小鍛冶奏(こかじかなで)くんですか?彼の出番は来週からですが、雰囲気をつかみたいから見学したいそうですね。チーフの櫻井さんが言ってました」


操がふぅんと頷く。
操が共演者を気にするのは珍しいことではない。相手の力量に合わせるのも役者には必要なことだ。今回の相手役はまだまだ芸歴が浅い。


「彼は民放、日曜朝のヒーロー役でブレイクしてます。役を抜けて一番大きい仕事ですから、気合も入っているでしょう」


「ヒーローものは一年通しでその役だもんね。そういった意味では先輩かな」


操はずるずるとラーメンをすすり、スープをずずっと飲み込んだ。


「ごちそうさま。……小鍛冶くん、ちょっと変な感じがするんだよね」


俺が手渡したペットボトルを開けながら言う。


「変というと?」


「台本読みの時、手ぇ抜いてたっぽい」
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