ご褒美は唇にちょうだい
コーヒーを飲み終え、操が立ち上がった。
バッグを持って近づいてくる。


「久さん、今日の演技どうだった?」


見上げてくる操の視線は熱心だ。俺は頷く。


「素晴らしかったです。少女らしい愛嬌とたまに見せる物憂げな瞳が、とても魅力的でした。あなたが演じる“美登利”は人気が出るでしょうね」


「本当に?あざとくは見えなかった?」


「素の操さんからしたらあざといでしょうが、“美登利”としてはいい役作りだと思いますよ」


操がふっと笑う。これは、ものすごく嬉しい時。

知らない人間が見たら、怒っているか嘲笑しているように見えるだろうけれど、このわずかな笑顔が、操には満面の笑みなのだ。


「久さん」


操はご褒美がほしいのだ。
存外寂しがりやで、俺に何らかの勘違いを抱いている操は、単純にキスして甘やかしてほしいのだ。

それがわかるからこそ、俺は操の欲求に知らん振りをする。


「夕食はどうしますか?俺はこの後事務所に戻りますが」
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