ご褒美は唇にちょうだい
「久さんだって、私の演技がまずいってわかってるんでしょう?」


この頃には、社長や他の社員を真似て、操は俺を“久さん”と呼んでいた。
しかし、親愛を示すためではなかった。
円滑に仕事を進めてくれる役に立つマネージャーへの敬意に、親しさを見せていただけだ。
操にはそういう形式的なところがあった。


「演技は形になっていますよ。ただ」


「ただ、何よ」


「あなたの演技にしては、情熱が足りないなと」


操が驚いた顔をした。俺が素直に感想を言ったことに驚いたのだ。

確かに俺は、操の演技には褒め言葉しか使ってこなかった。
実際、操の演技は文句のつけどころがなく、褒め言葉はこちらこそ形式的なものだった。
心の内でどれほど感動していても、心酔しているところを見せるのはどこか恥ずかしかった。


「情熱とか……久さんの口から聞けるとは思わなかった」


操が苦虫を噛み潰したような顔をするのは照れているのだとわかった。

今日は、きちんと本音を口にした方がいいかもしれない。
操は思ったより重症そうだ。
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