抜き差しならない社長の事情 【完】



恋は叶って


今はこうして肩を寄せ合い、

好きだよと言ってもらえるけれども、


それは自分から告白したからにすぎず、そう思うと少し哀しかった。




何度目かのデートの今日、食事を終えて向かうのは多分――

  はじめて行く神田のマンション……



――自分はあんな仕事をしていたし
 もしかしたら、軽い女だと思われてるかもしれない



だからこそ少し冷たくしてみたいと思うのに

部屋には行かないなんて、言えるはずもなく





だから


はじめて入った恋人の部屋で


「曄、曄から言わせちゃったから

 俺の気持ち、どう伝えたらわかってもらえるか ずっと考えたんだ


 いくらなんでも早いと思ったけど、でも

 これが俺の気持ちなんだよ」



そう言って、指輪が入ったリングケースと


サイン済みの婚姻届を、スッと目の間に出された時は――


曄は子供のように泣いてしまった。

< 157 / 169 >

この作品をシェア

pagetop