抜き差しならない社長の事情 【完】
―― 神田さん……
精一杯甘えて抱え込むこの腕が、想い続けた人のものであることがうれしくて
曄は恋人の肩に髪を擦り寄せた。
クスッと笑った優しい恋人は、
髪の上からキスをしてくれて、
曄はその温もりを感じながら
神田が切野社長と一緒にキャバクラに客として初めて来た日のことを思い浮かべた。
グラスにお酒を注いで、どうぞと渡した時
『ありがとう』と、神田はニッコリ微笑んだ。
たったそれだけのことだったが、その微笑は
ロッカーで先輩嬢にさんざん理不尽なことを言われ、ズタズタに傷ついていた心を、そっと癒してくれるような優しい微笑みで
思えばあの日から、曄の恋は始まっていたのかもしれなかった。