抜き差しならない社長の事情 【完】


この会社が無くなるという事は、
寝耳に水の話ではない。  



紫月が入社した4年前には10人いた従業員も1人2人と減り続け、

気が付けば社長を含めて3人だけになってしまった。



年末年始はそれなりに忙しかったが、
追い風を感じる要素はどこにもなく、

詳しいことを聞かされていない紫月にも、
会社を取り巻く環境がかなり厳しい状態であることはわかっていた。



そんな中、社長が倒れた。

『持病の胃潰瘍が悪化したらしい。まぁ……心労だな』

相原がそう聞いた時から、紫月は覚悟を決めていた。



「残念だけどな」

「体の方が大切ですもの。社長よく決意しましたね」


「幸田社長も還暦だしな、

 ここを売って、自宅も引き払って、奥さんの実家の田舎でのんびりすることにしたらしいよ」


「そうですか……」


「それで借金はチャラになるらしい」


「そうですか、借金が残らなくてよかったです。

 社長が一人で借金に追われるなんて嫌だもの」



「そうだな……。

 あ、そうそう、社長はちゃんと俺たちの事、考えてくれたぞ」


「え?」
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