抜き差しならない社長の事情 【完】
「ふぅ――」

と息を吐きながら軽く首を振り、

クイッとネクタイを緩めた相原課長をぼんやりと見つめながら、

紫月は心配そうに眉を曇らせた。




「社長どうでした?」

相原が出かけていた先は、
彼らの雇い主、幸田社長が入院している病院だ。



「ん?……  んん」

「具合、良くないんですか?」

「いや、体調はいいみたいだな。順調に回復しているし」


それならどうしてそんな風に浮かない顔をしているのだろうと、
怪訝そうに紫月が首を傾げていると、

珈琲を飲んで軽くため息をついた相原は、
重たそうにゆっくりと口を開いた。



「――いよいよここを手放す事にしたらしい」



「……そうですか。

 まぁ、仕方ないですよね!」



紫月はつとめて明るい笑顔を作り、

クルクルと椅子を回して部屋を見渡した。



「いよいよ、ここともお別れかぁ」
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