抜き差しならない社長の事情 【完】
紫月の両親が紫月を高く売ろうとしたのか、結婚相手を選り好みしている間に、
『夢や』はあっけなく資金繰りに行き詰まり閉店を余儀なくされた。
現実を見つめることができずに浮世離れしたまま、
紫月の両親は世間から簡単に見限られたのである。
母方の実家の援助でなんとか借金は清算し、
ようやく目を覚ました紫月の両親は、紫月の母の故郷である高崎へ移り住み、
小さな和装小物店を営んでいるという。
そして、
蝶よ花よと何の苦労も知らずに育った紫月は、
初めて親に反抗し、
たった一つ【自由】だけを手に入れて、
東京に残った……。
「くたばれとか、バカヤローなんて、
あの頃からじゃキャラ変わり過ぎだよ紫月……」
独り言のようにそうつぶやいて、
亜沙美はクスッと笑った。
――それにしても、こんな形で蒼太と再会するとは……
「奇遇にもほどがあるねぇ」
眠ってしまった紫月の寝顔にそう言って、
亜沙美は困ったように微笑んだ。