冷酷上司の甘いささやき
男性は制服じゃなくてスーツだから帰る前に着替える必要がなくていいなぁ……なんてどうでもいいことを思うのと同時に、やっぱり課長は背が高いなぁ、と、課長のうしろ姿を見上げながらそう思った。
確か百八十cm以上あるって誰かが言ってた。百六十四cmという、女性としてはどちらかといえば高い身長の私からしても、やっぱり百八十cmは高いなぁって思う。


課長は、とくになにも言わずにただスタスタと私の前を歩いていく。
まあ、普段から必要最低限のことしかしゃべらない人だし、会社を出た瞬間に突然口数が多くなってもびっくりするけど。


「戸田さん、家どこだっけ?」

駅に到着したところで、私は課長にそう聞かれる。

乗る路線と降りる駅名を伝えると、課長は「じゃあ駅までいっしょだな」と答え、改札の方へと進んでいく。


「課長のおうちもこっちでしたっけ?」

「うん」

「でも、降りる駅は違いますよね?」

「いつもは違う」

「?」

うーん、必要最低限のことしか言ってくれないから、どういうことなのか、課長がなにを言いたいのか、よくわからない。

と、私が困っていると、課長は小さく振り返って、横目で私を見ると。


「いつも降りる先は、戸田さんが降りる駅の数駅先。今日は、戸田さんが降りる駅でこれから人と会う約束してるから、降りる駅がいっしょ」
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