冷酷上司の甘いささやき
時間も時間なので、この間と同じようにスーパーの中を通ってアパートまで帰ることにした。スーパーの閉店は二十四時なので、最終上映の映画を観た帰りとかはいつも助かる。

でも、ついついお酒売り場に向かいがちになっちゃうのが困りどころ。家に着いたら早く寝ようとさっき思ったばかりなのに、私は缶ビールを購入し、スーパーの袋を提げながらスーパーを出た。


家に帰ったら、さっきのパンフレットを見ながらビールを飲んで、それから寝よう。右手に持ちっぱなしだったパンフレットにまた目を向けて、私はそんなことを思った。



そんなこんなでアパートまで帰ってきたのだけど、アパートの入り口のところで、なにやら夜にふさわしくない、誰かの大きな声が聞こえてきた。

ちょっと驚きながら、おそるおそる声のする方に近づくと、女の人が、となりにいる男の人になにか怒鳴っているようだった。

カップルかな? ケンカかな? い、いや、まさか暴漢……?


そう思い、私はひっそりともう少しそのふたりに近寄っていくと。



「!!?」

私はさっと、電柱の陰に隠れた。そこにいた男性が、遠山課長だったからだ。


私は電柱からゆっくり顔を出し、言い争いをしているそのふたりにもう一度目を向けた。


……いや、言い争いをしているわけではないな。さっきから怒鳴っているのは女性だけで、課長はなにも言っていない。
課長の表情はよく見えないけど、さっきから何度も頭をボリボリ掻いているのはわかる。めんどくさくてうんざりとしている、みたいな感じだろうか。
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