冷酷上司の甘いささやき
「え、なに? 途中で運転代わってくれるってこと?」

課長は正面を見て運転をしながらそう返した。


「いや、すみません。ただの願望っていうか。車の運転できないんですよ、私」

「ふぅん? 免許持ってないの?」

「免許はあるんですけど、ペーパーで……」

「車は持ってるの?」

「ないです」

「急に営業やれとか言われたらどうすんの。営業車乗れるの?」

「女性社員は希望しないと営業職にはならないはずなので……。でも、そうですね。万が一そうなったら困りますね。じゃあ、この車で練習……」

「させねぇ。これ新車」

「ですよね」

もちろん冗談で言ったんだけど、割とガチなトーンで断られた気がする。
見た感じ、確かに新しい雰囲気の、ブロンドメタリックのプリウス。内装はシンプルにしてあるし、課長が車にうるさいというような話は聞いたことないけど、大事に乗ってるんだろうな。そりゃ、私のぽんこつ運転の練習台にするなんて言われたらガチで断りもするだろう。



……それにしても。


「……私服の課長って、初めて見た気がします」

私は課長の姿を改めてまじまじと見つめながら、そう言った。



「そうだっけ。まあそうだよな。会社に私服で行かないもんな」

「飲み会とかでも、女性は私服ですけど、男性はスーツのままですもんね」

「でも戸田さんだって、いつもの飲み会の時よりオシャレじゃない?」

「まあ……」
< 55 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop