冷酷上司の甘いささやき
「……課長も、女の子に『かわいい』って普通に言ったりするんですね」

私は、ドキドキしてるのがバレたくなくて、ついそんなかわいげのないことを言ってしまった。すると課長は。


「べつに普段は言わないけど」

「まあ、それはそうかもしれませんが」

「彼女にだけ」

「……っ」


やだ。まただ、胸が強く脈打つ。
どうしちゃったの、私。


……でも、そうか。じゃあ、こういう課長を知るのは、課長の彼女になった人だけなんだね。
課長の今の彼女は私だから、今は私しか、この課長を知らない。
相変わらず口数が少ないけど、普段よりわかりやすくやさしくて、ちゃんと『かわいい』って褒めてくれる、この課長のことを。



「ていうか、俺だってこの服選ぶのに結構時間かかったから」

「え、そうなんですか?」

課長は、黒シャツの上にカーキの薄手のジャケットを羽織っていて、下はジーンズ。スタイルがいいからシルエットはキレイだし、落ち着いている印象があって私は好きだけど、特別時間がかかりそうな服装ではないと思った。



「戸田さんならわかってくれると思うけど、休日なんて基本家でゴロゴロしてるだけだし、いざ女の子と出かけるとなるとなに着てけばいいかわからなくなった」

「あっ、そうですよね」

私も、今日のコーディネイトには時間がかかった。普段からデート用のオシャレに慣れている人間だったらすぐに決められるのかもしれないけど、家にいる時にオシャレなんて当然しないし。

課長もいっしょなんだって思ったら、課長と私の性格の一致に対して改めてなんだかうれしくなった。
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