冷酷上司の甘いささやき
「あっ」

突然、課長が私の後ろから私の携帯に手を伸ばし、携帯の向きをひょいっと返ると、そのまま片手で器用にシャッターを押した。


画面には、私と課長がいっしょに写った。



「あっ、あの!?」

突然のことに、私は携帯を握ったまま動揺する。

課長は、そんな私の横から、私が握っている携帯の画面に目を落とすと。



「変な顔」

と、クスッと笑って、桜並木の方へどんどん歩いていく。



「ま、待ってください!」

私もそんな課長の後ろを慌てて追いかけ、課長のとなりを歩く。

……私がとなりに並ぶと、課長は歩く速度を少し遅くしてくれた。


「きゅ、急にシャッター切られたら変な顔もしますよ! ただ、言うほど変な顔じゃないです! ちょっと驚いた顔してるだけです!」

「はいはい」

「でも、せっかくいっしょに撮るならもっとちゃんとした顔で撮りたいです」

「そのうちな」

「そのうちですか? 今日じゃなくて?」

「俺、写真撮るのちょっとニガテだから。今日は桜メインで撮ればいいじゃん」

「写真ニガテならなんで突然写真撮ったんですか」

「だってどうせその写真すぐ消すだろ。写真撮るのが目的だったんじゃなくて、ちょっと意地悪したかっただけ」

「も、もう!」


……でも、課長がそんなふうに意地悪するのも、私だけ……だよね?

そう考えたら、意地悪、なんて言葉も、その行動も、やっぱりなんだかうれしくなってしまう。
……意地悪されるのがうれしいなんて、私、Mなのかな……? そこはあまり気にしないようにしよう。
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