冷酷上司の甘いささやき
……でも、これで”課長が私だけに見せる顔”がまたひとつ増えた。

今見せてくれた笑顔。

笑顔というか、ちょっとバカにしたような感じの笑いだったけど、その表情は、きっと会社の誰も知らない。私だけの、表情。今みたいな意地悪は、絶対ほかの人には言わないもん。



……そういえば、課長が普通に笑った時の顔は、まだあんまり見てないな。付き合うことになった時はわかりやすくにこって笑ってくれたけど、あんなふうに笑ってくれたのはあれだけだ。


今後いっしょにいれば、またあんなふうに笑ってくれるよね。……私だけに。




キレイな桜を見上げながら、ふたりでゆっくりと歩いていく。

ふと行き交う人たちにも目を向ければ、結構カップルも多かった。


……みんな、手つないでるな。



まあ、恋人同士なら手をつなぐのが普通か。
私と課長は、”普通”とはちょっと違うもんな。恋人らしいことはしないってことになってるし、今もべつに手はつないでいない。



……でも、それに対して少し寂しさを感じてる自分もいて……。



……手、つなぎたいのかな、私。もし、私から課長の手を握ったら、課長はどう思うだろう。嫌がったりは……しないと信じたいけど……。



そんなことを悶々と考えていると、不意に、私の左手と課長の右手がこつんと触れた。


タイミング的にちょっとドキッとしたけど、距離が近すぎたかな、と思い、私は自分の左手を課長の右手から少し離した。
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