冷酷上司の甘いささやき
結局、仕事が終わったあと、直接話すこともLINEをすることもなく、もちろん職場では全然話せずって感じで、あっという間に金曜日になってしまった。



今日は、阿部さんの歓迎会だ。
全員、十九時半には仕事を切り上げて、駅前の居酒屋で二十時から始まる。



「戸田さん! 私、今日の飲み会で着る服、二パターン持ってきたんで、どっちがいいか仕事終わったあと更衣室で相談にのってください!」

朝から日野さんが私に元気よくそう言う。


「二パターン? なんで?」

「どっちの方が男性ウケがいいか、悩みに悩んだんですけど決まらなくて」

「そ、そう……」

日野さんは、決してうちの男性社員の中に好きな人がいるというわけではないし、社内恋愛に憧れを抱いているというわけでもない。だけど、どこでどんなきっかけが転がっているかわからないからと、恋愛に関してはいつでも前向きで全力だ。

以前までは、そんな日野さんの考えが私にはよくわからなかったけど、今はただ純粋に、すごいなって思う。
私も、このくらい前向きに全力でガンガンいった方がいいのかな……。でも私と課長の関係性の場合、それやったら状況が悪化する気がするし……。




今日の仕事はあまり忙しくなく、予定よりも少し早く営業室を切り上げた。そのため、更衣室では日野さんの服についての相談にじっくり乗り(私はオシャレとか男性ウケとかよくわからないから、単純に日野さんに似合ってる薄いピンクの春用セーターを勧めた)、いっしょに居酒屋まで向かった。
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