冷酷上司の甘いささやき
「か、課長が飲まないのも私と同じ理由ですか?」

ドキドキをごまかすために、慌ててなにか話題を、と思って私はそんなことを聞いてみる。
慌てて聞いたわりには、ちゃっかり課長と自分の共通点を確認する質問になってしまった。


「俺は違う。単純に酒にあんまり強くないってだけ。まあ、ちょっとだけ飲む時とかもあるけど」

「そうなんですね」

「俺は大人なので、もし酒に強ければ飲み会ではきちんと飲みますよ。ひとりで酒飲む方が楽しいからとか言いませんよ」

「わ、私だって大人です!」

「どうかな」

「そ、そこはいつもみたいに『冗談だよ』って言ってください!」

で、でも確かに、お酒飲めるのに飲み会の場で飲まないのもちょっとあれかな? 今度は、一回くらいは飲んでみようか……。


「でもそっか。戸田さんもいつも飲み会では飲まないのか。知らなかったな」

「課長も、私のこと見てなかったですね」

「前までは全然興味なかったから」

「そ、そうでしたね」

確か、『最初はニガテなタイプだと思ってた』と言われたんだった……。そりゃ、私のことなんて見てたわけがないよね。がっくりしてちょっとだけうなだれると。


「……冗談だよ」

「え?」

いつもより少し低めの声で、いつもの『冗談だよ』を言われ、私はうなだれていた顔を上げ、課長を見つめた。


すると、課長はさっきまでのやわらかめの表情ではなくて、かといって普段職場にいる時の無表情でもなくて……


私に告白をしてくれた時のような、真剣な表情で。



「……ニガテなタイプだとは思っていたけど、かわいい子だなとは、ずっと前から思ってた」
< 78 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop