冷酷上司の甘いささやき
最寄り駅に着くと、日野さんや先輩たちにあいさつをしてひとり電車を降りた。

いつもは、飲み会の帰りは家に着いたあとにひとりでお酒を飲もうと、コンビニかスーパーで缶ビールを買っていくことが多い。
でも、今日はなんだかそういう気分でもなくて。
おかしいな、こんなに心がモヤモヤしているんだから、ビール飲んですっきりしたいはずなのに。そんな気力すらないのかもしれない……。



アパートに到着して、自分の部屋に入る。
いつもだったら玄関先の電気を点けて、そのまま部屋の蛍光灯も点けるけど。
今日は、電気を一切点けず、そのまま、薄暗い部屋のベッドにダイブした。



……疲れた。飲み会のあとって、いつもこんなに疲れたっけ。
……違う、課長と阿部さんがずっといっしょにいたのを見て疲れたんだ。



『課長と阿部さん、もしかしたら付き合うかもね』と、事務課の先輩も融資課の先輩もみんな口を揃えたように言う。
私も、何度もそのことで不安になった。ということは、きっとそれだけ、課長と阿部さんがお似合いだということかもしれない。



なんでだろう。疲れてるはずなのに、眠くはならない。いつもだったら、疲れている時にベッドにダイブすればすぐに寝られるのに。



今頃、課長は二次会で、阿部さんにまたべたべたされているのだろうか。そしてそのたびに……軽く流しながらも、私の知らないあのやさしい笑顔を、阿部さんに向けているのだろうか。
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