冷酷上司の甘いささやき
「気づいてないんですか⁉︎」

課長の発言に思わず驚く。あそこまでべたべたされたら普通気づくでしょ⁉︎


……課長はどうやらかなりの鈍感なようだ。もしかしたら私以上に、恋愛に鈍感なのかもしれない。


私は、阿部さんはきっと課長のことが好きだと思うということを課長に伝えた。

そして。


「……課長も、まんざらでもないのかと」

「え?」

「私には見せないやさしい笑顔、阿部さんには見せてた……」


勇気を出しながらそう言うと、課長はやさしい声で、

「とりあえず、部屋の中入っていい?」

と聞いた。


そういえば、玄関先で、玄関の戸を開けっぱなしで課長に抱きついていた。



私は課長から離れ、課長を家の中へと招き入れた。



玄関の戸が閉まるのと同時に、部屋の電気を点けにいこうと課長に背を向ける。


すると、うしろからふわっと。



今度は私が課長に抱きしめられる。



「か、ちょう……?」

うしろから抱きしめられているから、課長の顔が見えない。こんな玄関先で……靴も履いたままで……。


だけど、もちろん嫌じゃなくて……。




「阿部さんへのあの笑顔は、戸田さんのためなんだけどな」

「え?」

いったい、どういうこと? 私のためって?


……それに、課長が私を抱きしめているこの力は、どうしてこんなにやさしい力なんだろう。この間、私の手を握ってくれた時と同じ、嫌だったら振りほどけそうな、そんな力。もっと、ぎゅって強く、抱きしめてほしいのに……。
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