冷酷上司の甘いささやき
「阿部さんが会社に来なくなったら、戸田さんが自分を責めて悲しそうな顔するじゃん」

「え……?」

「だから、阿部さんが会社に来るように、やさしくしようと思って。でも俺、普通にしてると無表情だし、怖いって思われること多いから、とりあえずわかりやすくしようと思って、笑顔で接してた」

「そ、そうだったんですか?」

「作りものの笑顔だったからなぁ。そりゃ、戸田さんが見たことのない笑顔なわけだ」

つ、作りものの笑顔だったの? そうは見えなかった……まるで俳優のごとき演技力……。


そんなことより、私はその笑顔にずっとヤキモチを妬いていたけど、まさかあの笑顔が私のための笑顔だったなんて……。


ヤキモチ妬く必要なんて、全然なかったんだ。



「でも、それで阿部さんが勘違いしちゃったのなら申しわけないな。たしかに、やけにひっついてくるなとは思ってたんだけど」

「課長、鈍すぎですよ……」

「触られたりするのはさすがに流してたんだけどな。まあ、月曜からはちょっと距離置くか。とはいえ、もう俺と阿部さんが組んで仕事することもないし、大丈夫だろう」

「え?」

「指導係は今日で終わりなんだ。阿部さんはまだ知らないけど。
部長はもう少し俺に指導係やってほしいって言ってたけど、俺も自分の仕事が忙しくてな。営業課の片岡に指導係は引き継ぐんだ」

片岡くん……。日野さんの同期の男の子だ。真面目でしっかりしているから、たしかに指導係に向いているかも。
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