冷酷上司の甘いささやき
「続き、していい?」

さっき聞かれたことを、もう一度口にされる。
そんな熱っぽい瞳で見つめないで。こんな表情の課長も、初めて見る……。



だけど、確信できる。この表情は、絶対に絶対に、阿部さんは知らない。
私だけが知る、私だけが見ることのできる、私だけに向けてくれている、課長の表情――……。



だけど……。


「……私たち、恋人らしいことはしないって……」

課長とキスしたり、それ以上のことをするのが嫌なわけじゃない。
だけど、そういう約束だったから。間違えて距離感を縮めすぎたら、縮めようとした距離がどんどん遠くなっていきそうな……そんな不安があって。



だけど、課長は。


「あれは、戸田さんが嫌だったら無理に恋人らしいことはしなくていいって意味だったんだけど」

「でも、課長だって本当はひとりでいるのが好きで、恋人とべたべたするのは好きじゃなさそうだし」

「うーん、前まではたしかにそうだったんだけど、でも」


課長は、熱っぽい瞳はそのままで、だけど、



クスッと、意地悪げに笑って。




「戸田さんが妬いてくれたの、めっちゃかわいいと思った」

「……っ」

「かわいいし、うれしかった。正直、今まで付き合ってきた彼女が妬いててもそういうふうには思わなかったし、ベタベタしてこられるのはニガテだった。だけど、戸田さんにだったらベタベタされてもいいとか思っちまったし、俺も、もっと触りたいと思った」
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