ナイショの恋人は副社長!?
「続くときは続くものですね」
 
間近にいる敦志を見上げると、周りから頭が半分ほど突き出ていて、上背があることがひと目でわかった。
同時に、優子の目から見る敦志は、やはり他の人とは違うオーラを感じて映る。
 
優子は未だに見開いたままの目に、ひと際目立つ敦志を映し出していた。

「どうかしましたか?」
 
メガネ越しに目を瞬かせ、不思議そうな顔をして敦志が尋ねる。

優子は、思考停止状態の頭を懸命に再稼働させようと試みる。
しかし、すぐには言葉が出て来ず、暫しの間、互いに視線を交錯させていた。
 
すると、敦志と遭遇したため、気づかぬ間に電車が次の駅へと到着する。その際、電車が大きく揺れた。
優子は、右手でポールを握っていたとはいうものの、混み合った車内で振り向いた態勢だ。
さらに、敦志から不意に声を掛けられたことで、完全に油断していた。
 
仰け反るようにバランスを崩しかけた優子は、咄嗟に声を漏らす。
その優子を、敦志が右手で背中を支えて助けると、そのまま腕を掴まれた。 

停車して車内から幾人か降りて行った隙に、空いた角のスペースに押し込まれる。

「危ない。鬼崎さん、こちらへどうぞ。」
「そ、そんな! 大丈夫ですから」
「混雑してると、色々危険でしょう。特に、女性は気をつけないと」
 
さらに、敦志は自分の身体を盾にするように、優子と正面から向き合うと、ニコリと微笑んだ。
その言葉と笑顔を、優子はまともに受け止めることが出来ず、俯く。

「あ……ありがとう、ございます」
 
礼を歯切れ悪く口にする優子だが、敦志は特段気にする素振りもなく、柔らかな声で答えた。

「いいえ。女性を守るのは当然ですから」


< 20 / 140 >

この作品をシェア

pagetop