ナイショの恋人は副社長!?
 
敦志は、体裁等を考えた上ではなく、自然とそう口にする。
 
普通ならば、憧れの相手に助けられ、密着寸前の状況でそんな台詞を言われれば、天にも昇る気持ちになるところ。
けれど、優子の表情には、どこか蔭りがあった。
 
それでも、あからさまに変な顔をするわけでもなく、ほんの僅かな時間の優子の変化は、言葉を交わすようになって間もない敦志には気づかぬものだった。

「久々にこの時間に電車に乗ると、やはり混んでいますね」
 
優子を守るように、壁に手を付いたまま、チラリと辺りを見て敦志が言った。

「あ、あの、いつも車で出社されてらっしゃるんじゃ……?」
「はい。昨日のように、業務上、必要な場合は乗りますよ。なにも予定がない時は、こうして電車も利用しますし」
 
恐る恐る尋ねた質問に返された答えに、優子は再び目を皿にする。

「そんなに驚きますか?」
 
優子の顔を、先程よりもさらに近い距離で見下ろす敦志は、「ふっ」と目尻に皺を寄せて笑いを零した。
その笑顔は、今まで見てきたものとは違う気がして、優子は目を奪われる。
 
副社長としてではなく、ただのひとりの男性が笑うような無防備な笑顔に、優子はしばらく見惚れた。

「いえ。その……ことごとく、私の想像と違っていて」
 
それから、ようやく優子が開口する。


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