ナイショの恋人は副社長!?
「どうぞ、お待ちしておりました」
 
その女性は柔らかく口角を上げ、奥に立つふたりに向けて美しいお辞儀をする。
優子は道を開け、ヴォルフとドリスに会釈をした。
 
ふたりが応接室へと足を踏み入れるのを見届けた時に、奥側に立っている敦志の姿を見つけてドキッとした。
いるかもしれないとは思っていたが、本当にその姿を見つけてしまうと、優子の心は想像以上に跳ね上がってしまう。

思わず敦志へと視線を注いでしまう優子だが、心なしか、敦志が自分に小さく微笑みかけてくれたように感じた。それでまた、優子の心臓はドクドクと早鐘を打ち始める。

「鬼崎さん。ありがとうございます」
 
部屋の中へと意識を向けていた優子に、扉の前にいる女性が頭を下げる。
 
彼女は、優子や他の女子社員とは違って、制服姿ではない。
グレーの女性らしいラインをしたスーツはデザインも魅力的で、どこかのブランドのものだろうと優子は思う。

しかし、改めてスーツからその女性を見上げた時に、スーツだけが素敵なのではなく、着ている人間が綺麗なのだと感じた。

(この人、何度か社長と一緒にいるところを見た気がする)

優子は、目の前の女性が秘書だと確信した。

その彼女は、社長秘書をも兼任する程のはずなのに高慢的な態度も見せず、むしろ、寄り添うように優しく微笑む。
優子は、同性であるにも関わらず、見惚れてしまった。

「いっ、いえ。では、私はこれで」
 
我に返り、慌てて一礼してその場を去る。
エレベーターホールに向かう途中、足を止めて応接室を振り返った。

「華やかな人……」
 
秘書の女性を思い浮かべて、ぽつりと漏らす。
それから、自分の身体に視線を落とした。
 
制服のデザインに不満があるわけではない。
しかし、外見で、明らかに自分の立場がまるで違うことを意識させられた。
 
それは暗に、敦志とはかけ離れた場所に自分はいるのだと思わされる。

優子はきゅっと軽く唇を噛み、俯いたままエレベーターへと乗り込んだ

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