ナイショの恋人は副社長!?
『鬼崎さん、本日のご予定は?』
「はっ……?」
 
大抵どんな客にも動じない優子でも、さすがに敦志の言葉に驚き声を上げる。

一体どういうことかと思考を巡らせるが、全く見当もつかない。
優子が狼狽えていると、察した敦志が補足する。

『突然、申し訳ありません。私(わたくし)たちを助けると思って、本日、付き合っていただけませんか?』
 
その後、ヴォルフとドリスとの接待の場に同行する旨を説明された優子は、頭の中が真っ白になる。

何度か「はい」と相槌を返すだけで、気づけば話は参加する方向でまとまり、内線は切れていた。

「優子ちゃん? 誰? どうしたの?」
 
受話器からは、ツーという無機質な音が聞こえているのに、一向に受話器を戻さない優子に怪訝そうに尋ねる。
優子は、それでもまだ頭の整理がつかなくて、今本の声に反応できずにいた。
 
十数秒経った頃にはようやく動き、小さな声で今本に答える。

「いえ……。なんか、今日の接待に、私も……って」
「え? 接待? 優子ちゃん、今の内線って誰?」
 
眉根に深い皺を刻んで見上げる今本を、優子はゆっくりと振り返り、ひとこと口にした。

「……副社長です」
「……えーっ!」
 
受付という目立つ場所にもかかわらず、つい今本は声を上げる。
慌てた優子が人差し指を立て、「しーっ!」と言うと、今本は肩を竦めてフロアを見回した。

< 30 / 140 >

この作品をシェア

pagetop