ナイショの恋人は副社長!?
「副社長が接待同席を優子ちゃんに求めるって、一体どういうこと!?」
「いえ。それが私にもなにがなんだか……」
「あ! さっきのドイツの人が関係してるとか? だから、ドイツ語のわかる優子ちゃんを同席させたいってことじゃない? すごいよ!」
「え! そうだとしても、私は通訳出来るほどではないし、困ります!」
「『困ります』って言っても、もう行くことになっちゃってるんでしょ?」
 
小声で会話しているが、今本の興奮は冷めやらない。目を見開き、鼻息を荒くする。

優子は、本当に今本の言うような理由で声を掛けられたのなら……という不安とプレッシャーで喜ぶことなんかできない。

「なんか、ちょっと意外」
「えっ? なにがですか?」
 
今本に含み笑いで視線を送られる優子は、落ち着かない気持ちで聞き返す。
すると、今本が普段よりも親しみやすい笑顔を浮かべた。

「ほら。優子ちゃんって、入社して今日まで、大きな動揺をみせることってなかった気がして。だけど、今、すごく狼狽えてるから」
 
これまで、新人で後輩の優子は、今本から見て優秀な人間。

教えたことは一度で覚え、予想外のことに直面しても、慌てる様子も見せない。
常に冷静で、ソツなくこなす優子に、どこか距離を感じていたのも事実だった。

「そんな……いつも必死なだけですよ。ただ、顔に出さないように気を付けてるだけで。だから、今なんて、本当にもう心臓が口から出ちゃいそうですもん」

しかし、優子は今言ったように、心の内では焦ったり落ち込んだりしていた。
ただ、それらを表情に出さないように、気を付けていただけで。

「そうなの? でも、だとしたら、いつものように接待の席にいれば大丈夫だと思うよ。いつもの堂々とみせてる優子ちゃんでいれば」
「そ、そうですか……?」
「うんうん。受付業務の延長だと思って。頑張って!」
 
さすがに今回の件では、優子も平静を装う余裕もなく。
上層部の接待を共にする役に……と白羽の矢が立ち、しかも、敦志直々にその話を貰ったのだから当然だろう。
 
そんな優子にとって、今は、今本のエールが唯一、励まされるものだった。

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