ナイショの恋人は副社長!?
「ふ、副社長……どうして……?」
 
優子は、今の自分の姿を顧みることを忘れ、ただ茫然と目の前にいる敦志を見た。
優子の赤い顔は熱だけが理由ではなく、急に訪ねてきた敦志がさらにそうさせていた。

そんなことを知る由もない敦志は、心配そうな顔つきで言う。

「熱がまだありそうですね。病院には行かれましたか?」
「え、あ、すみません。行ってなくて……」
「ダメじゃないですか」
 
厳しい声色で注意されると、優子は反射で肩を上げた。
怖々と上目で敦志を見ると、視線がぶつかる。

気まずい思いで目のやり場に困っていると、眉を寄せていた敦志の表情がガラリと変わった。

「やっぱり、来てよかった」
 
そして言われたひとことに、大きく目を見開く。

「一応、必要そうなものは用意してきましたが。他に何かあれば、遠慮なく言ってください」
 
戸惑っている優子をよそに、敦志は手にあるビニール袋を差し出した。
遠慮しながらも、敦志が伸ばしてくれている手を無下には出来なくて、おずおずと袋を受け取る。
上からチラッと中身を見ると、解熱剤や果物などが入っている様子だった。
 
来訪してくれただけでも恐縮することなのに、その上、差し入れまでとなると優子は狼狽する。

「いえ! 何もっ……。これ、おいくらですか? ちょっと待っててください、今お財布を」
 
優子は慌てるあまり、部屋に戻ろうと踵を返した時に、段差に躓いてしまう。
ただでさえ平衡感覚も鈍っているため、倒れないようにと堪えることも出来ない。
 
ガサッと音を上げて、敦志から受け取った差し入れを床にぶちまける。

しかし、優子自身は転ぶことなく無事だった。

「ダメですよ。熱があるんですから、気をつけなくちゃ」

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