ナイショの恋人は副社長!?

「……血相を変えて、約束をキャンセルされた。その時、私は女性が原因なの？って聞いたわ。彼はそれに対して、イエスともノーとも言わなかった」
　
ドリスはその時のことを思い出し、膝の上に置いていた手をギュッと握った。
話を聞いたヴォルフは、特に何かを答えるわけでもなく、変わらぬ表情で頬杖をつく。

（それは、オレがユウコの携帯で電話を掛けたからだろうな）
　
冷静に分析するヴォルフの心理など気に留める余裕もないドリスは、手元を見つめて顔を顰めた。

「時間が無さすぎるのよ。それに、ここからドイツはあまりに遠いわ」
　
悲痛な声を涼しい表情で聞くヴォルフは、ドリス(妹)の恋話よりも自分のことだけを考える。

（これまでの経緯から、やっぱりサオトメはユウコが特別かもしれないな。そして、ユウコもおそらく……）
　
ヴォルフは視線を斜め下へと落とし、優子と敦志の微妙な関係と気持ちを想定する。
それは決して自身に有利な結果ではなかったが、ヴォルフの顔にはドリスのような焦りはなかった。
　
ヴォルフは膝の上に手を組み、口の端を吊り上げて冗談交じりに嘲笑う。

「だからって、簡単に引き下がるのか？　俺の妹のくせに、臆病だな」
「これはビジネスじゃないわ。そう簡単に言わないで」
　
余裕顔のヴォルフに、ドリスはやや感情的に返す。
「ふー」と息を吐き、一度目を伏せたヴォルフが、次に青い瞳を見せた時――。

「オレは、やれることはやりきるよ。……多少強引でもね」
　
今まで近くにいたドリスでさえも、一瞬目を見張ったその目は、鳥肌が立つ程の鋭利なものだった。